リハビリコラム No.21
貧乏ゆすりでむくみの改善


起きているだけで足は“大きくなる”

 「朝,履いていったブーツが1日遊んで帰ってくると脱げない」「靴を買うなら夕方が良い」こんな話を聞いたことがある人は多いと思います.この2つの話の根っこは同じで,「朝よりも夜の方が足が大きくなる」という現象からきています.


心臓の力だけでは血液を回収することができない


 まず,体循環と呼ばれる全身の血液の流れについて簡単に説明します.心臓によって送り出された血液は,動脈を通って身体のすみずみまで運ばれます.そこで血液は血管から染み出し,細胞に酸素や栄養素を届けた後,また血管(静脈)に戻され,心臓へと帰ってきます.このように血液は心臓→動脈→全身の細胞→静脈→心臓のサイクルでぐるぐると巡っています.
ただしここで問題になるのが重力で,足の先まで送られた血液は今度は重力に逆らって心臓まで戻らなければなりませんが,実は心臓には全ての血液を引き上げるほどの強い力はなく,血液は細胞の間に少しずつ溜まっていってしまうのです.
これがすなわち,“足が大きくなる”正体です.立っている時間が長いほど,足に組織液(血管の外に染み出した血液は組織液と呼びます)が溜まり,まるでスポンジに水が染み込むように膨らんでいきます.この状態がいわゆるむくみ(浮腫)です.


第2の心臓

 
 この問題を解決するために,身体には心臓の足りない力をサポートする機能があります.動脈を通って細胞に届けられた血液は,今度は静脈を通って心臓に帰りますが,静脈の内部には逆流防止用の弁があり,静脈に刺激を与えて弁を開閉させることによって血液の流れが生まれるのです.静脈は筋肉の周りに張りめぐらされており,筋肉に力を入れる,抜くを繰り返すことで筋肉が膨張したり細くなったりします.この運動が静脈に伝わり,血液の流れを生み出します.この働きを“筋ポンプ作用”と呼びます.中でもつま先を下に降ろす筋肉―下腿三頭筋(ふくらはぎの筋肉)は非常に強力な筋ポンプ作用を生み出す筋肉であり,第2の心臓と呼ばれるほどです.
つま先を下に降ろす運動を繰り返し行うことで筋ポンプ作用が生まれ,足先に溜まった血液を上に押し上げ,浮腫の改善が期待できます.この運動を自然に行うことのできる行為…そう,貧乏ゆすりです.



貧乏ゆすりは“考える人”スタイルで


 西保やFolkowたちの研究によれば,下腿三頭筋に最も効果的に筋ポンプ作用を起こすには,1分間に60回転くらいで軽めに自転車をこぐ程度の運動が適しているようです.これを貧乏ゆすりに当てはめてみましょう.椅子の背もたれに体重を預けてしまうと,運動負荷としてはやや心もとありません.やや前傾姿勢で座り,足に体重がかかるようにします.“ロダンの考える人”がイメージに近いですね.そして1分間に60回くらいの速度で踵の上下運動を行えば,膝下に理想的な筋ポンプ作用を起こせるはずです.人に貧乏ゆすりは行儀が悪いと注意されても,気にすることはありません.これは浮腫の“治療”なのですから!


もっと詳しく!(リハビリ専門職向け)


 足関節の底背屈運動は下腿の浮腫改善だけでなく,深部静脈血栓症(deep vein thrombosis:以下DVT)の予防として患者さんに指導することも多いかと思います.
DVTの原因静脈はヒラメ静脈,後脛骨静脈,腓骨静脈とされています.後脛骨静脈や腓骨静脈はヒラメ筋と後脛骨筋,足趾屈筋群に囲まれていますので,片面の下腿三頭筋だけでなく,これらの筋も同時にはたらかせることで両側から原因静脈を刺激し,より効果的な筋ポンプ作用が生み出せるようです.実際そのことを検証した実験では,下腿三頭筋だけの運動(足関節底背屈)と比較し,後脛骨筋と足趾屈筋群の運動(足関節内反と足趾屈曲)も加えた複合運動の方が,より静脈還流を促すことができたと報告されています.よって手術後等のDVT予防においては,足関節底背屈だけでなく,内反と足趾屈曲を伴った複合運動を指導した方が効果的ということですね.
さらに言うと下腿三頭筋は非荷重下では十分な筋収縮を得るのが難しいのですが,後脛骨筋は非荷重下での筋活動が高いとの報告がありますので,ベッドサイドでの練習により適していると言えます.


参考文献)
1)西保岳,池上晴夫「筋ポンプが血液循環動態に及ぼす影響」体力科学34,pp.167-175(1985)
2)Folkow,B.,Gaskell,P.and Waaler,B.A「Blood flow through limb muscles during heavy thythmic exercise」Acta.Physiol.scand80,pp.61-72(1970)
3)瀬川槙哉,齊藤明「筋ポンプ作用時に足趾屈曲と足関節内反を加えると下肢の血流速度は上昇するのか?」理学療法学Supplement2013(0),pp.1356(2014)






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〜腹斜筋トレーニングのすゝめ〜