高度な学習能力を持つ貝

 

 貝の世界では,学習は午前中のほうが午後よりも効果的のようです.徳島文理大学の伊藤悦朗教授(発表時は北海道大学所属)が,ヨーロッパモノアラガイを使った実験で明らかにしました(共同通信).
 ヨーロッパモノアラガイは脳の神経細胞数が少なく解析しやすいわりに,高度な学習が可能な貝であり,なんと味覚についての1か月以上もの長期記憶を形成できるようです(味覚嫌悪学習.参考文献1参照).このことから,記憶や学習についての研究でよく使われています.余談ですがモノアラガイの仲間は日本にもいて,昔は田んぼの脇の水路などにウジャウジャいた5mmほどの巻貝です.最近見ないな〜と思っていたら準絶滅危惧種に指定されていました.


記憶形成を阻害するタンパク質がある

 実験は,まずヨーロッパモノアラガイに好物のショ糖を与えた後に,苦手な塩化カリウムを与える,ということを10回繰り返します.すると貝はショ糖を食べた後には必ず塩化カリウムが来るということを学習し,ショ糖を口にしなくなります.これは味覚嫌悪学習という連合記憶(複数の事柄を関連付ける記憶で,条件反射が代表的)が形成されたことを示します.
 これを時間を午前と午後に分けて,それぞれ80匹の貝を使って実験してみました.その結果,午前中の貝たちは全てショ糖を食べなくなったのに対し,午後の貝たちでショ糖を食べなかったのは全体の7割程度にとどまりました.
 さらに脳を解剖して調べたところ,記憶形成を阻害してしまうCREB2というタンパク質が,午前中に実験した貝は午後の貝の半分だったことが分かりました.CREB2の役割については参考文献1で,やたらと無差別に長期記憶を残さないことも生物の生存戦力の一つとして重要なのでは?と考察しています.
 またCREB2は,学習し続けることで増加を抑えられることもわかっています.今回の実験でわかったのは,その学習を午前中に行うのがより効果的だということです.

 

午前中は脳がフレッシュな状態

 もちろんこれはヨーロッパモノアラガイを使った実験であり,この結果がそのまま人間に適用できるわけではありません.種や生活スタイルが大きく異なるため,午前,午後といった時間の意味合いも人間とは違う可能性も高いでしょう.
 ただ,CREB2に関連した記憶形成のメカニズムは貝も人間もほぼ同様であるため,この実験から多くの事が推測できると思います.今回の実験だけでは確かなことはまだ言えませんが,解析技術が進歩すれば,人間にとってもっとも学習に適した時間帯が判明するかもしれません.
 ところで脳科学者の茂木健一郎さんもまた,脳は朝起きてすぐが最も調子が良いと言っています.睡眠中に前日の記憶の整理が行われるため,朝は脳が一番フレッシュな時間なのだとか(CREB2が関係しているかどうかはわかりませんが).やはり1日の学習計画は重要度の高いものを午前中に持ってきたほうが良さそうですね.

 

 

参考文献
1)定本久世,伊藤悦朗(2011).mRNA絶対定量法によって明らかにされた長期記憶時の転写調節因子CREBの増減
生物物理,51,18-21













午前中のほうが
学習効果が高い