理学療法の世界には様々な評価尺度，分類があります（Hugh-Jonesの分類，Steinbrocker，土居アンダーソンの基準など）．それらは国家試験でも出題されますので，学生の皆さんはしっかり勉強しておく必要があるのですが，こういったものは原著に忠実であるが故に文章表現が難解であったり，翻訳が直訳過ぎて微妙だったりと，覚えにくいものが多いのが事実です．
　しかし実際，臨床でも使う知識ですので覚えないわけにはいきません．ではどうすれば良いかというと，現場の理学療法士さんたちは普段自分が活用している知識のほとんどに何らかのリモデリング作業を行っています．もとの文章をそのまま頭に入れるのではなく，自分が把握しやすい形に加工して覚える，ということです．
　例えば私だったら，Hugh-Jonesの分類はこんな風にリモデリングします．

■Hugh-Jonesの分類　原著（日本語訳）

ステージ	内容
�T	同年齢の健康者と同様の労作ができ，歩行，階段昇降も健康者なみにできる
�U	同年齢の健康者と同様に歩行できるが，坂道・階段は健康者並には出来ない
�V	平地でも健康者並に歩けないが，自分のペースなら1マイル（1.6km）以上歩ける
�W	休み休みでなければ50m以上歩けない
�X	会話・着替えにも息切れがする．息切れの為外出できない

■Hugh-Jonesの分類　リモデリング後

ステージ	内容
�T	歩行○，階段○
�U	歩行○，階段×
�V	ゆっくり歩行1.6km↑
�W	休み歩行50m↓
�X	会話で息切れ，外出できない

　「学習タイプ別ノートのとり方」でも触れましたが，文章というのはそのままでは覚えることに不向きです．しかも他人の文章であればなおさらで，覚えるためには意識的にリモデリングしてみると捗りますし，理解の助けにもなるでしょう．

※ついでにスタインブロッカーのクラス分類もリモデリング．

■Steinbrockerのクラス分類　原著（日本語訳）

クラス	内容
Class�T	身体機能は完全で，不自由なしに普通の仕事が全部できる
Class�U	動作の際に１ヵ所あるいはそれ以上の関節に苦痛があったり，または運動制限はあっても，ふつうの活動ならなんとかできる程度の機能
Class�V	普通の仕事とか自分の身のまわりのことがわずかにできるか，あるいはほとんどできない程度の機能
Class�W	寝たきり，あるいは車椅子に座ったきりで，身のまわりのことはほとんどかまったくできない程度の機能

■Steinbrockerのクラス分類　リモデリング後

クラス	ADL	仕事	趣味
Class�T	○	○	○
Class�U	○	○	×
Class�V	○	×	×
Class�W	×	×	×

　いわゆる「最近の若者」の学力低下が著しい，というのを様々なメディアで問題提起されているのを目にします．現在若者の皆さんには甚だ不愉快な話でしょうが，もちろん全体が等しく学力低下を起こしているわけではないでしょう．あくまで全体の平均での話です．ただ若者の学力低下云々，というネタは明治・大正時代のころから新聞で騒がれていたようですし，外国を見てみればピラミッドの壁画にまで最近の若者はけしからん，なんてラクガキが残っているようですから何をもって学力と呼ぶかが年代によって違うだけのような気もします．
　少し話がそれましたが学力低下と騒がれる原因の一端には，文章をリモデリングする能力の低下だか経験不足だかがあるように思います．現状，知識を得るためのツールが教科書か授業である以上，知識は他人の文章の形で伝わってきます．それを自分のものとするためには一旦自分の理解しやすい形に加工する必要があるわけですから，リモデリングの能力が低下していれば学習効率はどんどん落ちます．
　そう感じる根拠は，学生さんの指導に関わった時に，成績不振の学生さんは総じてリモデリングが苦手だったからです．また教科書の重要だと思うところにアンダーラインを引いてもらうと，成績の良い人は単語・短文レベルで引くのに対し，成績の悪い人はだらだらと長く引いてしまいます．文章読解に慣れていないことがうかがえます．
　これでは覚えられるわけがありませんし，しかも文章をリモデリングせずにそのまま覚えようとするため理解度が低く表面的な知識になります．
　リモデリングは文章読解に慣れている人であれば無意識的に行っているものですが，そうでない人は意識してやらないとなかなか上達しません．文章を読むのが苦手だったり，アンダーラインをやたらと長く引いてしまう人は，このリモデリングを意識して勉強してみてはどうでしょうか．
　また時間に余裕があるのなら，文章に慣れるために本をたくさん読むことをお勧めします．短編小説であれば読むのにそれほど時間はかかりませんし，時間の区切りもつけやすいです．身近に本好きの友人がいるのなら，相談すればあなたの好みに合った短編集でも紹介してくれるでしょう．国家試験の勉強とは直接関係ないことですが，文章読解力が上がれば学習効率も上がる，ということを覚えておいて下さい．