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イラストレーターと
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理学療法士のサイト

見出しNo.03 筋力トレーニングを1か月でやめてはいけない

筋力トレーニングは1か月でやめると損をする

 最近、ようやく涼しい日が増えてきました。夏太りなんて言葉がありますが、皆さんの体型管理はいかがですか?食べ過ぎて後悔してしまった人もいるでしょう。体型を元に戻すべくダイエットの決意をされた方のために、今回は筋力トレーニングの話をします。筋肉の量が増えると基礎代謝が向上し、今までと同じ食事量でも痩せやすくなります。これから筋力トレーニングでも始めようかと考えている人はぜひ心得ておいてほしいのですが、筋力トレーニングは1か月以内にやめないようにして下さい。筋力トレーニングは1か月続けてからが本番であり、1か月以内にやめてしまうとほとんど何も変わらないまま、ただ時間と根性を浪費した、ということになりかねません。今回は筋力トレーニングの際に起こる変化―筋肥大―についてお話したいと思います。


筋肥大に必要な3つの要素

 筋肉を増やす(筋肥大させる)ためには、大雑把に分けて3つの要素が必要です。1つ目は運動。筋肥大のためには最大筋力の6割以上の負荷でのトレーニングが必要とされています(筋力、持久力、瞬発力など鍛えたい性質によって負荷や回数が変わるのですが、今回の話の目的とは変わるので割愛します。またの機会に改めてお話します)。2つ目は栄養です。たんぱく質、アミノ酸など筋肉を構成する栄養素を中心に、バランスの良い食事を摂りましょう。3つ目は成長ホルモンです。身体の中で筋肉や骨の成長を促すスイッチのようなものですが、睡眠時に最も多く分泌されます。しっかり睡眠をとりましょう。「寝る子は育つ」は医学的に正しいようです。
 以上が筋肥大に必要な要素です。この3つがそろったときに筋肉が成長していくのですが、トレーニングを始めてすぐに筋肥大が起こるわけではありません。すぐにどころか、実は1か月も筋肉のボリュームには変化が起こらないのです。その理由をこの後説明しましょう。


力の出ない筋肉は筋線維がさぼっている

 まず筋肉の構造について説明します。1つの筋肉は筋線維と呼ばれる細い糸の集まりでできています。筋線維の1本1本が縮むことで筋肉全体が収縮するのです。そして筋線維は神経を伝わってきた脳の命令によって収縮します。「肘を曲げよう」と脳が考えるとその命令が電気信号となって神経を伝わり、筋線維に到達すると肘を曲げる筋肉が収縮して実際に肘が曲がります。
 ここで、筋線維の1本1本を兵隊、神経を指揮官に見立てて考えてみましょう(ちなみに脳は総司令官です)。1つの筋肉はたくさんの兵隊によって構成されていますが、兵隊は指揮官の命令が無いと働きません。そして指揮官が命令できる兵隊の数には限りがあるため、1つの筋肉には複数の指揮官がいます。普段運動をあまりしない人の筋肉は、指揮官の数が少なく、また指揮官自身の能力も低い状態と考えてください。ですから兵隊はいるのにほとんど言うことを聞いてくれません。だからあまり力が出ないのです(Step.1)。このように運動習慣が無い人の筋肉には、遊んでいる筋線維がたくさんあります。


鍛えれば指揮官も兵隊も成長する

 筋力トレーニングを始めるとどんな変化が起こるのかというと、まず指揮官の能力が上がってきます。今まで兵隊が全然言うことを聞いてくれなかったのですが、指揮官がスパルタになったのでしっかり働くようになります。それに伴って筋力も上がってきます(Step.2)。

 次に指揮官の数が増えます。これは神経がたくさん枝分かれして、何本もの神経が筋肉に繋がっている状態です。指揮官の能力が上がること、指揮官の数が増えることで働く兵隊の数がどんどん増えて、遊んでいる兵隊はどんどん減っていきます。そして筋力もどんどん上がってきます(Step.3)。

 遊んでいる兵隊がほとんどいなくなると、次は兵隊に変化が起こります。鍛えられた兵隊の身体は大きくなり、さらに強い力を発揮できるようになります。1本1本の筋線維が太くなること、これが筋肥大です。この時点で始めて筋肉のボリュームが増える、という変化が起こるのです(Step.4)。
 以上がトレーニングを始めてから筋肥大が起こるまでの流れです。Step.1〜3までは「運動学習の時期」と呼ばれ、現在ある筋肉を最大限活用しようとする働きです。ちなみに以前は運動をしていた人が運動をしなくなると、よく「身体がなまった」と表現しますが、Step.1の指揮官の力が弱い状態がまさにそれです。この状態をずっと放っておくと、今度は兵隊の力が弱ってきます。
 このように、運動学習が十分完成してようやく筋肉自体が大きくなっていきます。運動学習が完成するまでの期間は個人差があるものの、3〜5週間とされています。平均すると1か月です。つまり筋肉が増えていくのは、筋力トレーニングを始めてから1か月からが本番ということになりますね。


1か月間は見た目が変わらない
 というわけで、筋力トレーニングを始めても約1か月間は筋肉の量に変化はありません。ただ筋力(パワー)はトレーニングを始めてからすぐに上がり始めますから、筋力をアップさせたい人はいつやめてもかまいません。しかし筋肉の量を増やして見た目を変えたい、という人は絶対に1か月以内にやめないでください。しかも1か月目から増え始めるのですから、それなりに変化を求めるのであれば2ヶ月くらいは頑張ってほしいところです。


筋力トレーニングが長続きしない理由

 今まで運動習慣が無くて、一念発起して筋力トレーニングを始める人は大抵1か月以内に挫折してしまいます。「トレーニングがつらいから」「時間が無いから」「めんどくさいから」など人によっていろいろ理由はあるのでしょうが、その中に「効果が実感できないから」というのもあるのではないでしょうか。例えば「腹筋が割れてきた」だとか「力こぶが出せるようになった」など、頑張った成果を実感することができれば、つらくても続けることができるものです。
 しかし先ほど説明したように、始めてから1か月は見た目の変化が無いまま「やっても意味ないのかな?」という疑念に耐え続けることになります。これではやめたくなっても仕方ありませんね。ただ逆に考えれば、筋力トレーニングを頑張っているのに自分の身体に目立った変化が現れなくてもそれは当たり前で、やり方が間違っているわけではないということです。せっかく頑張っているのにその効果を実感できないというのはつらいことですが、1か月後から変わり始めると信じて、まずは1か月頑張ってみてください。



青木双風(あおきそうふう)青木双風

イラストレーター
ハンドメイド作家
理学療法士

趣味のイラストや工作の展示、イラスト素材の制作などをしています。

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