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イラストレーターと
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見出しNo.04 あなたにピッタリなのはどんな杖?

どんな杖を選べばいいのか?

 杖は、私たち理学療法士にとって非常に身近な道具です。杖を使うことで歩くことのできなかった患者さんが歩けるようになったり、より安定した歩き方ができるようになります。
 ただし杖と一口にいっても形や大きさなど様々な種類があり、その杖がどんな人に向いているかももちろん違います。使う杖を間違えると、その人がせっかく持っている能力を活かせなかったり、かえって歩く邪魔になってしまう事もあります。
 ここではリハビリテーションで用いる代表的な杖とその特徴について、簡単ではありますがまとめてみます。


T字杖

杖と聞いて一番イメージしやすい、一般的な杖です。グリップ(握り)の部分と支えの部分がTの字になっていることからこの名前がついています。一本杖と呼ぶこともあります。
 両脚の筋力やバランス能力が全体的に低下している人や、片側の脚の機能を悪くした人に向いています。
 ただし腕、特に手首の力がある程度必要なこと、杖自体が不安定なことから重度の症状を持つ人には向きません。何も無しで歩くことは出来ないけれど、手すりや壁に片手をついていれば歩けるくらいの人にお勧めです。また普段は必要なくても、体力に不安のある方が疲れた時のために持ち歩くこともあります。
 最も普及しているタイプの杖なので素材の種類やデザインも多く、細かな追加機能もいろいろあります。例えば折りたたみできるタイプは、外出して食事する時など必要ない時にはバッグの中にしまっておけるので便利です。
 グリップの形状も様々ですが、掌の形にフィットし、接触面積が広く全体的に体重をかけられる形状の方が長く歩いていて疲れません。


四点杖

 T字杖が四つ脚になったような形の杖です。四脚杖とも呼びます。杖にかなりの体重を預けても安定して立てるため、筋力やバランスの低い人に向いています。T字杖では体重を支えきれず歩けない人も、この杖なら歩けることも多いです。
 しかし脚が四つあることから、杖をつく面が平らでないとガタついてしまうため、砂利道など屋外の使用には向きません。また長く歩いていると重くて疲れてきてしまうため、外に出かける機会が多い人、活動量の高い人はT字杖を使用した方が良いでしょう。
 そのかわり屋内で使用する時には非常に優れた杖で、例えば家事をしていてちょっと杖から手を離したいとき、T字杖ならば杖が倒れないよう慎重にどこかに立てかける必要がありますが、四点杖ならば杖自体が自立するので立てかける必要がなくすぐに手を離せる気軽さがありますし、万が一バランスを崩してもすぐに杖につかまることができます。


松葉杖

 足を怪我したらこの杖というくらい、一般的にもお馴染みの杖ですね。手首で体重を支え、腕と身体で杖の上部を挟み込むため、かなりの安定感があります。
 例えば足を骨折して体重をかけることができなくても、この杖を両手で使えば骨折した足を浮かせたまま、全く体重をかけずに歩くことができます。
 ただ安定性が高いかわりに、杖の操作はそのほとんどを肩に頼らなければならないこと、しっかり肩を動かさないと床に引っかかりやすいことなどから、日常生活での実用性はあまり高くありません。怪我をして足に体重をかけられない時期に暫定的に使う杖、といった意味合いが強いです。


ロフストランドクラッチ

 この杖はもともとは松葉杖の亜型なのですが、この杖ならではの特徴が多いので独立した種類として紹介します。体重を支えるのは手首ですが、前腕をおおって固定する部品(カフ)があるため安定性が高く、手首にかかる負担を減らしています。
 手首でバランスを制御する必要がないため、手首の力が弱かったり、疲れやすい人に向いています。
 ただその反面、手首が固定されてしまうので肘と肩を使って操作する必要があり、スムーズに扱うにはちょっとしたコツが必要です。
 他の杖に比べてスタイリッシュなデザインが多く、杖が必要な若い人で「T字杖はお年寄りっぽくてちょっと…」という人にはこのロフストランドクラッチを勧めています。


サイドケイン

 四点杖をさらに大型にしたような構造で、かなりの安定感があります。それぞれの脚の間隔は40cm前後で、もたれかかるように体重を預けても倒れにくい構造になっていて、立ち上がるときの支えとしても使えるくらいです。
 ただし安定性と引き換えにかなりの重量があり(一般的なT字杖が300g前後なのに対し、これは1.7kgあります)、長い距離の使用には向きません。また四点杖と同じく平らな場所でないとガタついてしまうため、屋内での使用に向いています。


プラットホーム杖

 多くの杖は体重をおもに手首で支えますが、こちらは上部の台座に肘をついて体重を前腕で支えます。関節リウマチなど手首に負担をかけると痛みが出てしまう人に向いています。
 ただし体重をかける位置が他の杖より高くなること、動きを肩で制御することから扱いが難しく、手首で支えるタイプの杖では痛くてどうしても使えない、という人以外にはあまりお勧めしません。


まとめ
 以上がリハビリテーションで用いる代表的な杖です。杖の種類を変えるだけでその人の歩行能力が大きく変わることは、私もふだん仕事をしていてよく経験することですので、自分に合っているのはどんな杖なのか、杖選びの参考にしてもらえると幸いです。
 次回は杖の調整の仕方について解説します。

(写真提供:日進医療器株式会社)



青木双風(あおきそうふう)青木双風

イラストレーター
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理学療法士

趣味のイラストや工作の展示、イラスト素材の制作などをしています。

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