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イラストレーターと
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見出しNo.06 マスクはインフルエンザの予防に役立つか

インフルエンザ流行の季節

 冬も本格的になり、だいぶ空気が乾燥してきました。前回の続きで杖の使い方のコツについてお話するつもりでしたが、感染症が流行している時期ですので、先に感染予防の話をさせてもらいます。


粘膜の潤いが感染予防のカギ

 感染予防には様々な手段がありますが、今回はのど粘膜の潤いに注目してみましょう。空気中を漂う感染症のウイルスは呼吸によって身体内部に侵入し、のど(咽頭)や気管の細胞にとりつくことで増殖を始めます。増殖スピードが身体の防衛能力を超えると感染症が発症します。
 これを防ぐために重要な働きをするのが粘膜で、粘膜表面にある細かい毛(線毛)や粘液によってウイルスの進入をブロックします。粘膜が乾燥するとこれらの機能は低下してしまいますので、粘膜の潤いを保つことが感染症予防には重要になってきます。
 粘膜が潤うためには、栄養状態や疲労の度合いなど様々な要素が関係しますが、その中の一つに空気の湿度が挙げられます。


湿度は40〜60%に保つのが良い

 粘膜が外気に触れたとき、乾燥した空気であるほど多くの水分が粘膜から奪われてしまいます。鼻から吸い込んだ空気が咽頭や気管に届くまでに、湿った鼻粘膜に触れることで多少湿度は上がりますが、それでも冬の乾燥した空気では十分とは言えません(口呼吸が癖になっている人は乾燥した空気が直接咽頭や気管に当たるため、より危険です)。ですから部屋の空気の湿度はなるべく高い方が良いのです。
 また、インフルエンザウイルス自身も湿度に弱いという報告があります。あくまで実験室でのデータですが、空気中に放出されたウイルスは相対湿度(以下、湿度。詳しくは末尾の※注を参照)40%を超えたあたりから急激に生存能力が落ちるようです。
 ただその一方で、湿度が高くなりすぎるとカビやダニが発生しやすくなります。こちらは50%を超えたあたりから増え始め、60%を超えると急激に増殖します。カビの胞子やダニの死骸、抜け殻はアレルギー症状を誘発し、のどの粘膜が荒れる原因にもなります。
 以上の事から、湿度は低すぎず高すぎず、40〜60%に保つのが良いでしょう。図書館や映画館など特定の建物も、「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」の第二条にある具体的な基準では、湿度を40〜70%に保つことと定められています。


インフルエンザウイルスは小さすぎる!


 そして今回の本題、マスクについてです。何年か前に危険度の高い新型インフルエンザが世界的に流行したとき、国内でも予防の重要性が各種メディアで取りざたされました。テレビの健康番組でマスクの是非について論じられていたとき、出演者の意見の中に、インフルエンザウイルスは非常に小さくマスクの線維の隙間を容易にすり抜けてしまうため、マスクをすることには意味が無い、というものがありました。
 確かにこれには一理あります。私たちが日常的に使用するマスクは目が粗すぎるため、空気中のインフルエンザウイルスを物理的にブロックする事はほとんどできません。インフルエンザウイルスの大きさは100nm(1万分の1mm)で、仮にインフルエンザウイルスがテニスボールくらいの大きさだとすると、マスクの網み目の隙間は3メートルくらいになります。


結論:マスクは有効

 しかしマスクの効果として重要なのは、実はウイルスをブロックできるかどうかではなく、吸気に湿度を添加できることです。私たちが吐いた息(呼気)によりマスクの内側は湿り気を帯びますが、これにより今度は吸いこむ息(吸気)の湿度が上がります。
 そして結果、のどの粘膜が乾燥した外気にさらされることなく、潤いを良好に保つことができるというわけです。屋内だろうが屋外だろうが吸気の湿度を一定以上に保つことができ、しかも加湿器と違いカビやダニの心配もないわけですから、マスクの役割は非常に重要と言えますね。
 他にも、ウイルス自体は小さすぎてブロックできなくても、ウイルスが混入した飛沫は防ぐことができますし、感染者がマスクをすることで周囲への飛沫の拡散を防ぐこともできます。
 またマスクをすることで、ウイルスが付着しているかもしれない手で自分の鼻や口に触れる機会も減るでしょう。
 たとえウイルスが小さすぎてマスクをすり抜けてしまうとしても、粘膜の潤いを保つことでウイルスへの防御力を高めることができるわけですから、マスクをすることはインフルエンザの感染予防(…だけでなく、多くの呼吸器感染症の予防)に有効な手段と言えるでしょう。


※注:相対湿度とは
相対湿度とは、「空気中に含むことのできる最大水分量に対する実際の水分量の割合」です。空気は温度が高いほど多くの水分を含むことができますので、水分量が同じまま温度だけ上げると相対湿度は下がることになります。そのため暖房器具を使う際には、適度に湿度も上げながら温度を上げていくことが重要です。



青木双風(あおきそうふう)青木双風

イラストレーター
ハンドメイド作家
理学療法士

趣味のイラストや工作の展示、イラスト素材の制作などをしています。

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