本文へスキップ

イラストレーターと
ハンドメイド作家の
理学療法士のサイト

見出しNo.08 歯をみがくと歯が削れる!?

酸性食品で歯が溶ける

 皆さんは1日どれくらい歯みがきをしていますか?1日3回毎食すぐに、という方もいれば、1日1回寝る前に、という方もいるでしょう。生理的口臭を消すために朝起きてすぐみがく人も多いと思います。
 回数やタイミングは生活スタイルに合わせて人それぞれでしょうが、「一番理想的な歯みがきの習慣は?」と聞かれれば、多くの人が「食後すぐにみがく」と答えるのではないでしょうか。私も子供の頃にそう教わりました。しかしここに、歯みがきの常識を変えるような興味深い研究結果があります。
 歯の象牙質の試験片を酸性炭酸飲料に90秒間浸してから口の中に固定し、そのあとに歯みがきをしたところ、象牙質が削れていたというものです。口の中に戻してからすぐに歯みがきをするほど、削れる程度も大きいようです。つまり酸性の飲料・食料を口にしてからすぐに歯みがきをすると、歯みがきによって歯が削れてしまうということを示しています。これは酸によって歯が溶かされてしまう「酸蝕症」と呼ばれる疾患が、歯みがきによって悪化したものです。酸蝕症になっている歯の症状には以下のようなものがあります。

 ■歯に尖っている部分が少なく、丸みがかって見える
 ■前歯の先端部分が透きとおっている
 ■歯に亀裂やざらつきがある
 ■熱いものや冷たいもの、甘いものを食べた時にしみる(虫歯と同じ)
 ■噛み合わせの部分が黄色くなっている


脱灰と再石灰化のメカニズム

 通常、口の中はpH6.7くらいの中性に保たれています。酸性食品を食べると口の中は酸性に傾き、pHがおよそ5.6以下になると歯の成分であるカルシウムイオンやリン酸イオンが歯の外に溶け出していきます。これを「脱灰」と呼びます。このとき歯の表面は非常にもろい状態となりますが、食事が終わると唾液のはたらきでpHは中性へ戻ってゆき、pHがおよそ5.6以上になると唾液を通じてカルシウムイオンとリン酸イオンが歯に戻されます。これを「再石灰化」と呼びます。
 レモンを食べたときに歯が軋んだことはありませんか?あれがまさに脱灰が起こっている状態で、しばらくすると再石灰化が起こり歯の表面はツルツルに戻ります。このように歯は食事の度に小さな破壊と再生を繰り返しているのです。レモンのように酸性度の高い食品を大量に、または長い時間摂取すると脱灰の程度も大きくなり、再石灰化で補えなくなります。これが進んだものが酸蝕症です。
 そして脱灰が起こってから再石灰化が完了するまでの間に、歯みがきのような強い刺激を歯の表面に与えてしまうと、脱灰で脆くなっている歯がさらに歯が削れてしまいます。再石灰化は食事後からおよそ1時間で完了するとされていますので、食後1時間は歯みがきをしない方が良いということになります。


歯みがきしないと虫歯になるのでは?
 子供の頃に「食べたら歯みがきしないと虫歯になるよ!」なんて言われてましたから、食後すぐに歯みがきしない方が良いなんて言われると、「虫歯になったりしないんだろうか?」と心配になります。
 ここで少し虫歯について整理しておきましょう。虫歯は正式には「う蝕症」と呼ばれる疾患で、酸蝕症と同じく酸によって歯を溶かされてしまいます。ただ酸蝕症が食物の酸により直接歯が溶かされるのに対し、う蝕症はプラーク(歯垢)が付着している部分で虫歯菌が糖分や炭水化物を栄養にして酸をつくり、その酸によって歯が溶かされます。ですので食後に食べカスが口の中に残ったまま放置すれば、それだけう蝕症になるリスクが高くなるというわけです。食後すぐに歯みがきした方が良いと言われているのは、虫歯菌が酸をつくる材料を取り除いて口の中を清潔に保つためです。


待つか、待たざるか

 しかしこれで、酸蝕症を防ぐためには食後すぐに歯をみがいてはならず、歯をみがかなければ虫歯になるという、「あちらを立てればこちらが立たず」状態になってしまいました。どうすれば良いのでしょうか。
 前述の酸蝕症の研究に注目してみましょう。この実験では象牙質の試験片を使っています。象牙質は人の歯の成分の多くを占めていますが、実は歯の表面は象牙質よりも強固なエナメル質という物質でできています。エナメル質も酸性食品を食べれば脱灰が起こりますし、今回の歯みがきの話とは関係なく酸性食品の食べ過ぎで酸蝕症になってしまった患者さんはたくさんいます。ですから油断はできませんが、象牙質よりも酸に対して防御力が高いため、脱灰の程度も小さいと考えられます。ですから再石灰化が完了する1時間という時間も、実際はもっと短くても問題ないと思われます。
 そしてう蝕症についても、もう一度考えてみます。う蝕症はプラーク(歯垢)の付着部で虫歯菌が酸を産生することで起こりますが、新たに形成されたプラークは直後は酸を産生せず、産生するようになるまではおよそ24〜48時間かかります。ですので毎日きちんと歯みがきをしている人であれば口の中に残留しているプラークの量も少ないため、歯みがきは食後何が何でもすぐに、というほど気を遣わなくても良さそうです(ただしプラークを完全に除去するのは歯科衛生士であっても難しいようなので油断はできませんが)。


結論:食後30分してから歯みがきする

 結論として、う蝕症(虫歯)を防ぐために食後はなるべく早めに歯をみがいた方が良いのですが、酸蝕症の影響も考慮して「食後30分くらいに歯みがきをする」というのをお勧めします。食事をしたらまず口の中を水でゆすいで、食べカスを洗い流しておきましょう。
 ただし、小さいお子さんの場合は歯みがきが不十分なために口の中の残留プラークも多いと考えられますし、生活習慣に対するしつけもあるでしょうから、食後すぐにみがいた方が良いでしょう。また大人でも歯周病にかかっている場合は、食後すぐに歯みがきしない事で口の中の細菌が増殖してしまうリスクの方が大きいですから、やはり食後すぐにみがいた方が良いでしょう。
 最後に酸性度の強い食品の一覧を載せておきますので、これらの食べ物を大量に摂取した場合は食後の歯みがきを待つ時間を多めにとること、酸性食品をだらだらと長く食べないこと、寝る直前に食べないこと(睡眠時は唾液が少なくなるため再石灰化が不十分になる)を心がけ、酸蝕症の予防に努めてください。

 脱灰が起こる食品
( )内はpH
レモン(2)、コーラ(2)、梅干し(2)、白ワイン(2.3)、赤ワイン(2.6)、リンゴ(3)、酢(3)、栄養ドリンク(3)、スポーツ飲料(3.5)、果汁ジュース(4)、白米(4)、ビール(4)、日本酒(4)、醤油(5)、トマト(5)、バナナ(5)、コーヒー(5)、肉(5)、ウイスキー(5)、焼酎(5) 
脱灰が起こらない食品
( )内はpH
 魚(6)、野菜(6)、緑茶(6)、ウーロン茶(6)、牛乳(7)、わかめ(10)、ひじき(10)、ほうれん草(10)、コンニャク(12)
※梅干しはpH2ですが、唾液の分泌を促すので脱灰の程度は他の食品より弱くなります。



青木双風(あおきそうふう)青木双風

イラストレーター
ハンドメイド作家
理学療法士

趣味のイラストや工作の展示、イラスト素材の制作などをしています。

Mail:sofu-s★sofustudio.com
(★を@に変えて送信してください)