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見出しNo.10 重心と介助技術@:重心を近づけると楽になる

腰痛は介護の職業病?

 介護の現場で働く方々は、平均よりも腰痛の発症率が高めです。畿央大学健康科学部の調査(※1)によれば、ある老人保健施設では実に半数近くの介護職者が業務が原因で腰痛を抱えているようです。肉体労働が多いことに加え、患者さん、利用者さんの動作介助で腰背部の筋肉を酷使してしまうことが原因と考えられます。そしてこれは介護職者だけでなく、在宅で介助が必要なご家族がいる方にもあてはまる問題です。
 ただ介助にともなう腰痛は、いくつかのポイントを念頭に置くことである程度予防することができます。今回はそのうちの1つについて説明します。それは重心に注目した楽で安全な立ち上がりの介助方法についてです。


人間の重心はへその少し下

 重心とは、物体の重さの中心の事です。本当は物体の全体に重さが存在しますが、物理の世界では物事を考えやすくするため、物体の重心に全ての重さが集まっていると仮定します。人間の重心はどこかというと、骨盤の内部にあります。へその少し下あたりです。例えば体重60sの人の体重の中心は、へその少し下あたりにあるということです。


重心同士を近づけると少ない力で上げられる

 物体を持ち上げようとするとき、自分の重心と物体の重心の、水平面上の距離が近いほど、より小さい力で持ち上げることができます。これはテコの原理を参考にすると分かりやすいでしょう。上の写真のように、人間が物体を持ち上げようとした時、力の働きをテコで表すことができます。持ち上げるものの重さが同じならば、支点から作用点までの距離が短いほど、必要な力は小さくて済む、というのがテコの原理ですから、持ち上げようとするものが自分に近いほど、持ち上げる力は小さくて済みます。



 ですから、立ち上がりの介助などで誰かを持ち上げようとするとき、介助する人とされる人はなるべく近い方が良いのです。近づけば近づくほど、例えば抱き合うくらいまで接近して手伝うと、ずいぶん介助が楽になります。逆に遠慮して遠くから介助しようとすると、大きな力が必要なだけでなく腰にも負担がかかりやすいので、腰痛の原因になります。あまり近づくのはちょっと恥ずかしいと思うかもしれませんが、お互いの重心を近づけることを意識して介助すれば、今までよりもずっと楽に安全に介助することができるでしょう。また自分の重心に近い方が、万が一バランスを崩した時に対応しやすいというメリットもあります。
 ところで介助とは関係ありませんが、この特徴を利用すれば、例えば荷物を運ぶときなどにも楽をすることができます。図のような荷物を運ぶ場合、なんとなく荷物を平らに持つことが多いと思いますが、荷物を平らにもつよりも、立てて持った方がお互いの重心が近くなりますね。実際に試してみましょう。立てて持った方が少ない力で持てるのが分かるはずです。

※参考文献1:峯松亮「介護職者の腰痛事情」日本職業・災害医学会会誌 P166-169、Vol.52、No.3(2004)



青木双風(あおきそうふう)青木双風

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