■青信号の点灯時間は横断歩道の長さで決まる
皆さんは歩行者用信号の青の点滅の意味を知っているでしょうか? 道路交通法施行令によれば、「歩行者は、道路の横断を始めてはならず、また、道路を横断している歩行者は、速やかに、その横断を終わるか、又は横断をやめて引き返さなければならない(第二条、信号の意味等)」としています。
この青信号の点滅の時間はクリアランス時間と呼ばれ、本来横断歩道を渡るのに必要な時間には含まれていません。万が一渡れなかった場合の保険、のようなものでしょうか。
実は歩行者用信号の青の時間(青に変わり、点滅するまでの時間)は、横断歩道の長さによって異なります。横断歩道の長さ1mにつき1秒で計算し、さらに交通量の差によって多少の猶予時間がプラスされています。つまり20mの長さの横断歩道では、青点灯時間は20秒(+α)ということです。
しかしこの+αの時間というのが場所によってかなりバラつきがあるようです。名古屋大学の小野寺先生が研究の一環で愛知県の交差点で青点灯時間を調査したのが右の表ですが、信号Aでは30.5mの横断歩道で青点灯時間が55秒とかなりの時間が追加されているのに対し、信号Dに至っては38.7mの横断歩道で青点灯時間が39秒となっており、猶予時間がほぼ無いに等しいものに設定されています。これだけバラつきがあるようでは猶予時間を初めからあてにすることは難しく、横断歩道を安全に渡りきるためには1mあたり1秒で歩くことが求められます。
■筋力が落ちると歩行速度も落ちる
皆さんは自分の歩行速度がどれくらいか意識したことがありますか?一般的に健常成人の歩行速度は時速4kmほどと言われています。当然個人や状況によって差がありますが。ちなみに不動産広告などにある「駅まで徒歩○分」というのは時速4.8kmで計算されています。通勤時のやや早歩きの状況で考えているようですね。
時速4kmは秒速1.1mですから、信号は平均値よりも若干遅い速度を基準にしているようです。だとしてもこの速度は高齢者の方には厳しいのではないでしょうか。
リハビリテーションの介護予防の分野では、歩行速度をその人の能力を把握する指標として取り入れています。歩行速度には身体の様々な能力(主に筋力)が反映されますから。
人が歩く速度は歩調と歩幅によって算出されます。歩調とは1分間あたりの歩数であり、歩幅とは1歩分の距離のことです。つまりどれだけ速く足を出すかと、どれだけ大きく足を出すかの掛け算によって速度が決まるというわけです。この2つのうち歩調はバランスと、歩幅は筋力と密接に関連しています。歩幅について言えば、右足を1歩前に出すには右足の股関節前面についている筋肉と、身体を前に蹴り出すための左足の股関節から足首までの後面についている筋肉が必要になります。筋力が低下してくると当然これらが正常に働かなくなりますから、歩幅は小さくなっていきます。結果、歩行速度が落ちてくるというわけです。
■点灯時間を延長してくれる信号機の整備が進んではいるが…
私たち理学療法士は、患者さんが自宅退院する際にその方の生活スタイルを考え、歩いて外出する機会があると判断した場合には毎秒1m以上の速度で歩けるかどうか?ということを気にします。理由はもちろん横断歩道を既定の時間通りに渡りきれるかどうかであり、もし渡りきれなかった場合は焦って本人の能力以上に頑張ってしまい転倒する危険があるからです。
ここ数年で歩行速度が遅い方のための青延長用押ボタン付き信号機がずいぶん増えてきたように感じます。また公明党のホームページで、センサーで横断歩道内にいる人を感知し、自動で延長してくれる機能を持つ信号機が紹介されるなど(行って見ました
デジカメ片手に社会科見学 第29回「最新式信号機の実力を確かめに行って見ました」)、歩行速度が遅い方のための信号機整備が進んでいるようです。しかしながら自分が利用する信号機がすべて青延長用押ボタン付きとは限りませんし、信号を避けて移動するのはもっと危険です。ですから現状で青信号を渡りきれるという方は、今後もその歩行速度を維持できるよう、自分でできる範囲で日々の練習をしてみましょう。
■歩行速度を維持するために重要な筋肉〔大殿筋〕のトレーニング
歩行速度に関係する要素のうち、歩幅を維持するために必要な大殿筋の練習方法について紹介します。大きな筋力を得ることではなく、毎日筋肉を使い続けることが大事ですから、練習はそれほど大変ではありません。少しの練習時間で構いませんので、毎日の習慣にしてみてください。
〔大殿筋〕のトレーニング
@椅子の背もたれなどに軽く手を添え、片足を股関節から後ろに上げます。
Aいっぱいまで曲げて、5秒数えて静かに下ろします。
B5回を1セットとし、左右両方行います。
C生活で使う筋肉なので大きな筋力は必要ありませんが、物足りない方は足首に重りなどを付けてみてください。
〔注意〕
足は股関節から曲げましょう。図の様に身体が前に傾くようでは股関節は動いていません。
参考文献:
1)小野寺理江「横断歩道における横断時間と安全性」国際交通安全学会誌30(2),pp.22-29(2005)
2)村田啓介「歩行者青信号の残り時間表示方式の導入に伴う横断挙動分析」国際交通安全学会誌31(4),pp.76-83(2007)
3)公明党ホームページ「行って見ましたデジカメ片手に社会科見学 第29回」URL:www.komei.or.jp/more/report/29/01.html