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イラストレーターと
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見出しNo.23 階段はなぜ後ろ向きに降りた方が楽に感じるの? 前編

階段は後ろ向きに降りる方が楽?

 リハビリでは、自宅へ退院できそうな患者さんには階段昇降の練習をします。バリアフリーという言葉が当たり前のように使われるようになっても、二階への行き来や玄関の上がり框など、段差がなくては困る場所はたくさんありますから。
 ところで皆さんは階段を降りるとき、前向きで降りるのと後ろ向きで降りるのでは、どちらが楽だと思いますか?何を当たり前の事を聞いているんだ、と思うかもしれません。前向きで降りた方が楽に決まっているじゃないか、と…? 本当にそうでしょうか。これはぜひ自分の身体で試してみてください。ある程度高めの段差でゆっくり動いた方が、違いが分かりやすいでしょう(後ろ向きで降りるときは踏み外さないよう気を付けて!)。
 さて、試してみた結果どうでしょうか。まず前向きで降りたときには、軸足のももの前側に負担がかかっているのが実感できると思います。これは“大腿四頭筋”という筋肉で、膝を伸ばして体重を支えるはたらきがあります。階段を降りるときには片足立ちになりますから、軸足にすべての体重がかかり、それを大腿四頭筋で支えているわけです。
 それでは次に後ろ向きですが、足を降ろすときに片足立ちになるのは同じですから、軸足にすべての体重がかかるという条件は同じのはずです。しかし実際はどうでしょう。前向きの時ほどには、ももの前側に負担がかかっている感じはしないのではないですか?


違いは上半身の角度
 
 これは気のせいではありません。実際に大腿四頭筋に要求される負担が少なくなっているため、ももの前側が楽だと感じるのです。これはテコの原理で説明できます。テコ、という言葉を久しぶりに聞く人も多いと思います。子供の時に理科が苦手だった人、そんなに難しい話ではありませんのでしばしお付き合いください。
 まず、この写真を見てください。階段を降りる姿勢を、前向きと後ろ向きでそれぞれ撮影したものです。上半身の傾きに注目してください。前向きでは上半身がほぼ直立しているのに対し、後ろ向きでは前傾していますね。この上半身の角度が重要です。それと軸足に体重がかかり、膝が曲がりそうになるのを大腿四頭筋の力で支えている、という基本構造も押さえておいてください。
 ではこれを前向きと後ろ向きでテコを使って整理してみましょう。まず前向きでは上半身は直立していますから、体重は真下にある股関節にほぼ全てかかっています(作用点)。その体重を膝を支点として、大腿骨(ももの骨)についている大腿四頭筋(力点)で支えるわけです。
 これを今度は後ろ向きで考えてみますが、膝が支点であること、大腿四頭筋が骨についている場所は前向きの時と全く同じです。違うのは、上半身が前に傾くことによって体重がかかる位置が前に移動する、つまり作用点が支点に近づくことです。

 テコに共通する性質として、作用点と支点の距離が短いほど、少ない力でテコを動かすことができる、というものがあります。これはシーソーを例にするとイメージしやすいと思います。相手が自分より体重が重くても、中心に近い位置に座れば持ち上げることができます。それと同じで、上半身を前に倒して体重のかかる場所が膝に近づくために、少ない力で支えることができるのです。


昇るときも同じ

 ただ、いくら楽とは言っても、階段を毎回後ろ向きで降りるのは怖いし、面倒ですね。足を踏み外してしまうかもしれません。ですからもう少し考えを進めてみましょう。後ろ向きで降りた方が、体重を支える力が小さくて済むのは先ほど説明した通りです。しかしここで重要なのは前向きか後ろ向きかということではなく、上半身の角度です。であればこれを、前向きでも意識して行うだけで良いのです。
 さらにこれは、階段を昇るときにも同様に当てはまる特徴です。ですから階段を昇り降りする時には、前向きで上半身を前に傾けてみる。これだけで膝は確実に楽になります。変形性膝関節症などで膝に痛みを抱えている方も、この方法で膝への負担を減らすことができますので、ぜひ試してみてください。ただし、降りるときには前のめりになり過ぎて階段から転げ落ちないように気をつけてください。


オマケと次回への続き
 さて今回は、階段を昇り降りする時には、上半身の角度を変えることで膝が楽になる、という話をしました。しかし、実は正確には楽になっていません。いえ、膝は楽になっているのですが、そのぶん他の場所で負担が増えているのです。次回はそのことについて解説してみようと思います(次回につづく)。



青木双風(あおきそうふう)青木双風

イラストレーター
ハンドメイド作家
理学療法士

趣味のイラストや工作の展示、イラスト素材の制作などをしています。

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