■T字杖を安定して使うには握力が必要
リハビリテーションの場ではたくさんの種類の杖を使います。患者さんの能力や環境を考慮して、最適だと思われる杖を処方します。最も一般的な杖はT字杖というもので、シンプルな1本の軸の上に持ち手(グリップ)が水平についているため、横から見るとTの字に見えます。杖と聞いて一番イメージしやすい杖だと思います。
T字杖は、杖の中では“体重を支える”ことと“バランスをとる”という能力はかなり低めです。その代わり患者さんの能力が杖に見合っていれば、“滑らかに”“速く”歩くことができます。“安定性”と“動きやすさ”は基本的には相反するものですので、私たち理学療法士は杖の特徴と患者さんの能力を見比べ、安全性を確保しながら最も歩きやすい杖を選定しています。
T字杖を使うときに必要な患者さんの能力に“握力”があります。杖の持ち手がシンプルな構造をしていますので、患者さん自身が杖をしっかり握っていないと、杖自体がぐらぐら揺れて不安定になります。その状態で杖に体重をかけると、バランスを崩して転倒事故につながりかねません。
T字杖はホームセンターなどでも販売されている、一般的に普及している杖ですので(100円ショップでも見かけました。びっくり!)、簡単に手に入れることができます。ですから怪我や病気でなくても、身体が衰えてきたことを家族が心配して杖を贈る、なんてことも多いようです。それ自体は良いことだと思いますが、時々ご自身に合っていない杖を使っている方を見かけることもあります。
■ロフストランドクラッチとプラットホーム杖
前述のようにT字杖はある程度の握力が無いと、かえってバランスを崩しやすくなります。そのような方にはT字杖は不向きですので、かわりに握力が低くても扱える杖を紹介します。
写真はロフストランドクラッチ、またはロフストランド杖と呼ばれるもので、前腕部に支えがついているのが特徴です。水平方向の動揺を前腕部の支えで制動することができるため、グリップを強く握らなくても安定して体重をかけられます。
もう一つはプラットホーム杖と呼ばれるもので、もともとは指に強い負担をかけられないリウマチ患者さんのために開発された杖です。肘を曲げて、水平になった前腕部で体重を支えるため握力が低くても使えます。
どちらの杖も使用に高い握力を必要としない杖ですが、そのかわりに肩関節での操作性を要求されます。T字杖を使うとき、おおよその位置は肩を使って動かし、微調整を手首で行っています。しかし上記の二つの杖は手首が固定されるため、微調整も含めて動きのほとんどを肩で操作することになります。そのため肩の力が弱い人や肩に痛みがある人には向かないこともあります。一長一短ということですね。
■T字杖の使い方を再考しよう
あまり大きな杖は目立つのでちょっと…という方には、T字杖のグリップを検討することをお勧めします。一般的なT字杖のグリップの断面はおおよそ円形、もしくは楕円形です。そのためしっかり握っていないと手の中でグリップが回転し、体重をかけたときに不安定になります。2番目の写真のT字杖はグリップが手のひらにフィットしやすい形をしていることが特徴です。このようにグリップの形状や滑りにくい素材を使うことで、握力の足りない部分を補うことができます。
また握り方についても気にしてみてください。3番目の写真のように人差し指を軸に沿わせるように伸ばして握ると、人差し指で回転を制動することができます。
※杖写真提供:日進医療器株式会社様、フランスベッド株式会社様