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イラストレーターと
ハンドメイド作家の
理学療法士のサイト

見出しNo.28 廊下が狭くても車椅子で移動したい 前編

日本の建築物は91cmが基準

 現在の日本の住宅のほとんどは建材の規格に“尺貫法”の名残があります。尺貫法(しゃっかんほう)とは長さ・面積などの単位系の一つで、国際基準であるメートル法の前に日本で使われていました。建築物を構成する基準の単位を“モジュール”と呼びますが、メートル法では1mがモジュールなのに対し、尺貫法では3尺(約91cm)がモジュールです。例えば畳のサイズは横91cm、縦はその倍の182cmです。
 部屋の広さを四畳半など畳の枚数で表すように、モジュールは建築物のサイズの基準となります。つまり日本の住宅の様々な部分のサイズは、そのほとんどが91cmの倍数になっています。


車椅子は廊下を曲がれない

 モジュールが91cmになっていると、車椅子を使ううえで不都合になるのが廊下の幅です。廊下の幅もモジュールに従い91cmですが、これは壁芯(壁の真ん中)から向かい側の壁芯までの距離なので、実際の廊下の幅はここからさらに壁の厚みを引いたものになります。壁の厚みを仮に10cmくらいだとすると、実際の廊下幅は81cmということになります。自走用車椅子が直進するのには78cm以上の幅が必要とされていますので、ギリギリですがまあ何とか通れる幅ということになります。
 直進はそれで良いとして、曲がり角はどうでしょうか。自走用車椅子が直角に曲がるためには、85〜90cmの廊下幅が必要とされ、その場で回転する場合には直径150cmのスペースが必要とされています。壁芯から壁芯までが91cmでは、壁を入れてなお、これほどの廊下幅が捻出できるわけがありません。つまり車椅子で家の中を移動できるのは曲がらずに行ける場所のみで、かつ行った先に回転するスペースが無ければ後ろ向きで戻ってこなければならない、ということになります。これは非常に不便なことです。


モジュールを変えれば廊下の幅も変わる…が?

 メートル法を使っている住宅のモジュールは1mであるため、廊下の壁芯〜壁芯の距離も1mとなり、尺貫法モジュールの廊下よりも9cm広くなります。これならいくらか車椅子の走行にも余裕が出てきますし、今回の本題とは違いますが廊下に手すりをつける場合も、手すりが邪魔になって通りにくい、ということもありません。
 では日本の建築物を全てメートルモジュールに変えればいいじゃないか、となりますが、なかなかそうはいきません。なぜなら窓やドアなど家に組み込む建材は、日本の場合はほとんどが尺貫法のモジュールで製造されておりメートルモジュールに適合しません。ハウスメーカーはそれぞれの専門メーカーが製造した建材を組み立てて家を造るため、メートルモジュールに切り替えるなら建材のほとんどをメートルモジュールに統一しなければなりません。全てそっくり入れ替える、というのはなかなか難しそうです。
 ただ、メートルモジュールを使用しているハウスメーカーもいくつかあります。例えば、日本で最初にメートルモジュールに切り替えたハウスメーカーである積水ハウスでは、建材を製造するメーカーと契約を結び、メートルモジュールの建材を積水ハウス用に造ってもらっています。また自社でも工場を持っており、独自の建材も造っているそうです。
 しかし尺貫法モジュールの建材がほとんどを占める日本では、少数派のメートルモジュールの建材は必然的にコストが上がりやすく、流通ルートの確保も含めて課題が多いため、今後、様々なハウスメーカーがどんどんメートルモジュールに切り替えていく…というのは難しそうです。結果、日本のほとんどの住宅において廊下の幅は狭い、というのが現状です。
(では、どうするか…? 後編に続きます)

※今回のコラムのメートルモジュールに関する部分は、積水ハウス株式会社 新前橋展示場の伊藤さんにお話を伺いました。



青木双風(あおきそうふう)青木双風

イラストレーター
ハンドメイド作家
理学療法士

趣味のイラストや工作の展示、イラスト素材の制作などをしています。

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