■日本の住宅の廊下は狭い
前回のコラムでは、廊下の幅における日本の住宅事情に触れました。日本では尺貫法をモジュール(建築物を構成する基準単位)としてきた歴史があるため、メートルのモジュールと比較して廊下が狭くなってしまう、ということでした。またハウスメーカーが今後新規にメートルモジュールに転換するには、コスト見直しや流通ルート開拓などクリアしなければならない課題が多く、簡単には変わらないと予想されます。
尺貫法による91cmのモジュールでは廊下の幅が車椅子の自走にギリギリになってしまいます。直進だけであればそれでも良いかもしれませんが、これでは廊下を曲がることはできません。スムーズに部屋に入るのも難しいでしょう。何度も切り返しを繰り返しながらようやく部屋に入る…ということを毎日の生活で繰り返すことは非常に苦痛です。
■6輪型車椅子
この問題を解決するためにおすすめなのが“6輪型車椅子”です。6輪型車椅子とは、名前の通り6つの車輪がついた車椅子のことです。通常の車椅子はメインの駆動輪が2つ、前方にキャスターが2つの計4輪ですが、さらに後方にキャスターが2つついたのが6輪型車椅子です。これにより後方に転倒しにくくなっているのが特徴です。後方のキャスターは地面にピッタリついているわけではなく若干の遊びがあるため、前方のキャスターを上げて段差を乗り越えることは従来型と同じようにできます。
6輪型車椅子の駆動輪は普通型と比べてやや前方にあり、利用者のほぼ真横に位置しています。従来型の車椅子であれば、駆動輪を前に付けるほど後方に倒れやすくなるため、利用者よりもやや後方についています。しかし6輪型では前後のキャスターが転倒を防いでくれるため、駆動輪の位置は構造上の制約を受けず、自由度が高いのです。
■駆動輪が真横にあるメリット
6輪型車椅子の特徴として駆動輪が利用者の真横にあるのは前述の通りですが、実はここに6輪型車椅子の大きなメリットがあります。
まず上肢を後方に伸ばす必要がなくなるため、肩に負担をかけずに楽に漕ぐことができます。写真の肩の角度を左右で比べてみてください。それぞれハンドリムの同じ位置をつかんでいるのに、駆動輪の位置によって漕ぎ始める角度が変わっています。6輪型車椅子は駆動輪を前に付けることで、上肢の負担を軽減できるのです。
またもう一つ、こちらが重要なのですが、その場で車椅子の向きを変えようとしたときに6輪型車椅子は回転の中心が車椅子の中心にくる、ということが挙げられます。回転の中心は駆動輪の位置と同じですから、普通型車椅子の場合は回転中心が後方に偏ることになります。回転中心と前方のキャスターとの距離が長くなり、結果として回転するために大きなスペースが必要になります。6輪型車椅子の場合は、車椅子のほぼ中心で回転するため、普通型よりもコンパクトに回転したり曲がったりすることができるのです。ただし曲がりやすいということは、ちょっとした力の不均衡ですぐに曲がってしまうということで、広い場所を真っ直ぐに、速く移動するのは苦手ですから注意してください。直進能力は普通型に劣るものの回転能力に優れるため、まさに住宅内移動向きの車椅子と言えます。
■さらに方向転換に特化した車椅子
そんな回転性能に優れた6輪型車椅子ですが、これをさらに特化させた車椅子が存在します。松永製作所の“ネクストコアくるり”という6輪型車椅子で、国際福祉機器展にも出品され話題になったのですが、90cmのスペースがあればその場で1回転できるという驚異の回転性能を誇っています。廊下幅が65cmあれば曲がることができますので、尺貫法のモジュールで建てられた住宅でも全く問題ありません。さらにはキャスター上部に壁に当たった際の傷付き防止のバンパーが装着されており、狭いスペースを移動することを前提として造られているのです。
もし車椅子で在宅生活をする予定で、車椅子操作に自信が無い、楽に移動したい…と考えている方は、6輪型車椅子を検討されてはどうでしょうか。6輪型車椅子を扱っている福祉用具業者さんは多いですから、介護保険を取得しているならちょっと試してみるというのも気軽にできると思いますよ。
※写真提供:松永製作所