■インフルエンザ流行の季節がやってきました
今年もインフルエンザ流行の時期がやってきました。今シーズンは新型コロナウイルスの終息がまだ見えないため,例年には無い動きが起こるかもしれません。ポジティブな予測としては、インフルエンザウイルスも新型コロナウイルスと同様にアルコール消毒が有効ですので、新型コロナウイルスへの危機意識が高まっている現在の状況下ではインフルエンザ患者数も低下するのではないかという見方があります。
しかし日本でもインフルエンザウイルスと新型コロナウイルスへの同時感染例が報告されているほか、そもそもこのような特異な状況のデータが過去にありませんので、前例に基づく予測は困難です。なかなか楽観視することは難しいですね。
感染を少しでも予防するためには免疫力の強化が重要ですが、今回は筋力トレーニングのやり方によっては免疫力が低下してしまうかもしれない、ということについてお話しします。
■アスリートは風邪をひきやすい
Spenseという方が2007年に発表した、トレーニングレベルと上気道疾患感染率に関する論文を紹介します。上気道疾患とは鼻やのどを患部とする疾患の総称で、この論文においてはいわゆる風邪のことだと思ってください。
32人のエリートアスリートと31人のレクリエーションアスリート、20人の座りがちな人(直訳)について5か月間のトレーニング中の上気道疾患の発生率を調べたものです。エリートアスリートとは競技レベルの高強度トレーニングを行う人、レクリエーションアスリートとは趣味程度にスポーツを楽しむ人ととらえておけば良いでしょう。座りがちな人(直訳)とは…何でしょうね。運動不足の人、と考えれば良いでしょうか。
調査の結果、上気道疾患の発生率は、エリートアスリート、座りがちな人、レクリエーションアスリートの順に高いという結果になりました。高強度のトレーニングをしている人は、運動不足の人よりも風邪をひきやすかったのです。
■高強度のトレーニングにより粘膜免疫が低下する
これには2つの理由があります。まず一つ目は、およそ1時間を超える持久性運動や、心拍数150を超えるような高強度のトレーニングを行うと、体内でコルチゾールというホルモンが分泌されます。これは運動ストレスに対する身体の反応なのですが、コルチゾールには免疫機能を抑制してしまう働きがあるため、病原菌に対する防御機能が低下してしまうのです。
もう一つは運動に伴う血流の変化です。高負荷の筋力トレーニングをすることで骨格筋への血流量は増えますが、一方で皮膚、粘膜、内臓への血流は抑制されます。そして血液中には免疫の主役である白血球が多く存在しています。特に粘膜において、白血球は病原菌の体内への侵入を防ぐ重要な役目がありますから、粘膜の血流が減るということは病原菌の体内への侵入を簡単に許してしまうということになります。
このような運動による免疫機能の低下は、運動から数時間〜1日程度続くとされています。そのため高強度のトレーニングをした直後は、いつにも増して感染予防を徹底する必要があります。
■継続的な運動で免疫力を向上させよう
ではトレーニングは感染予防に関してデメリットしかないのかというと、そうではありません。先の論文の報告において、レクリエーションアスリートの上気道疾患発生率が最も低かったことから、適度な運動は免疫機能をむしろ向上させると言えます。“適度”のさじ加減はなかなか難しいところですが、指標としてはカルボーネン法や主観的運動強度があります。
カルボーネン法とは安静時心拍数と年齢から適正心拍数を算出する方法で、以下の公式に自分のデータを当てはめて計算します。
((220−年齢)−安静時心拍数)×運動強度+安静時心拍数
仮に40歳で安静時心拍数が70の人の適正心拍数を求めてみましょう。運動強度は、最大努力の60%くらいがいわゆる“適度”とされていますので、0.6を代入します。すると、
((220−40)−70)×0.6+70=134
この134という心拍数がその人にとっての目安となりますので、運動中にこの心拍数を保つように運動量を調整することで、適度な強度で運動することができます。
そんな計算めんどくさくてやってられるかという人には、主観的運動強度がお勧めです。この表は主観的運動強度の1つでボルグ・スケールというものです。安静にしているときの楽な状態を7、もう限界で続けられないほど苦しい状態を20として、運動中の主観的な疲労度を数字で表したものです。
20
19 非常にきつい
18
17 かなりきつい
16
15 きつい
14
13 ややきつい
12
11 楽である
10
9 かなり楽である
8
7 非常に楽である
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この指標はリハビリテーションの場面でも使われていますが、13の“ややきつい”にあたる運動強度が、いわゆる適度な運動です。ちなみにこの数字を10倍したものがおおよその心拍数と等しいとされていますが、年齢などにより誤差がありますので、あくまで参考程度です。
このように適度な運動強度を自分なりに把握して継続することが免疫力アップにつながります。
■参考文献
1)Luke Spence, Wendy J. Brown, David B. Pyne. Incidence, etiology, and symptomatology of upper respiratory illness in elite athletes. Medicine and Science in Sports and Exercise.39:577-586.2007
2)清水 和弘.免疫力-SIgAが免疫力の大きな鍵を握っている-.National Strength and Conditioning Association Japan.26:18-23.2019