■熱中症の救急搬送件数は増加傾向
夏に入り、陽射しがきつい日が増えてきました。年間の熱中症の救急搬送件数は5〜7万人程度で、6〜9月に集中しています。2010年以降からやや増加傾向にあります。若年者でも高齢者でも発症の可能性があり、若年者は屋外で、高齢者は屋内で発症する割合が高いです。
ところで私の職場の隣に、壁面にツタを這わせた建物があります。例えば外国の映画に出てくるような、レンガ造りの家の表面をツタが覆っている様は、年代の経過を感じる独特の雰囲気があって趣深いものです。しかしその建物はちょっと違っていて、壁の表面が上から下までスポンジのような素材で覆われていて、適度に保水性があり根がはりやすくなっています。つまり最初から壁自体がツタを這わせる目的で作られているのです。これはおそらくグリーンカーテンと同じ効果を狙っているのでしょう。
■グリーンカーテンには気温上昇を抑える効果がある
グリーンカーテンという言葉が普及して久しいですが、どんな効果があるのでしょうか。グリーンカーテンとは朝顔やゴーヤなど、ツル性の植物をネットに這わせて窓を外側から覆うものです。カーテンと呼ばれてはいますが、目的としては葦簀(よしず)や簾(すだれ)に近いでしょう。陽の光が室内に入るのを防ぎ、気温上昇を抑える目的で使用します。
葦簀や簾のように、直射日光を遮るだけでも涼をとることはできますが、グリーンカーテンは植物であるという特性から、さらに優れている面があります。
■ドライミストと同じ原理
グリーンカーテンが持っている気温の上昇を抑える効果は、おもに2つに分けられます。1つは蒸散効果です。葉の裏側には気孔と言って、根から吸い上げた水分を空気中に放出する穴があります。放出された水分は、風に吹かれてどんどん気化していきますが、この時に周囲の熱を奪っていく性質があります。これはドライミストと同じ原理です。この働きにより周囲の気温が下がります。
■表面積が広いと熱を周囲に拡散できる
もう1つは、表面積が広いことです。グリーンカーテンは全体的に見れば1枚の布状ですが、それらはたくさんの葉が集まってできています。1枚の葉の形はたくさんのギザギザがあわさってできていて、1つのギザギザの周りにはさらに細かいギザギザ…このように繰り返しの細かい構造が続くものをフラクタル構造と呼びます。
フラクタル構造の特徴は表面積が広いことです。例えば小腸の内側の粘膜も、たくさんの突起が並ぶフラクタル構造をしていますが、この小腸の突起を丁寧に広げたとすると、その面積は実にテニスコート1面分にも及びます。それだけの広さのものが自分の体内に収まっているとは驚きですが、そのおかげで消化された食物に大きな面積で接することができ、効率的に栄養素を吸収することができます。
グリーンカーテンに話を戻しますが、これらは表面積を広くすることで、熱の放散を有利にしています。直射日光に晒されてグリーンカーテン自体の温度が上がっても、空気と接する面積が広いために熱をどんどん空気中に拡散します。そのためグリーンカーテンはそれ自体の温度が上昇しにくく、周囲への熱の放射が抑えられます。真夏のアスファルトの照り返しを思い出してみてください。アスファルトが直射日光によって熱せられ、熱くなったアスファルトがさらに周囲に熱を伝える現象です。普通のカーテンではあれと同じ現象が部屋の内部に向かって起こるのですが、グリーンカーテンではそれが抑えられるということです。
この効果は多くの実験で検証されていて、フラクタル構造の日除けと一般的な日除けパラソルの、夏の直射日光下での温度上昇を調べた実験で、パラソルの温度は61℃まで上昇したのに対し、フラクタル日除けは44℃にとどまったという報告があります(参考文献参照)。
■散歩に行くときは木陰で休みましょう
真夏はまだ先とはいえ、だんだんと暑い日が増えています。無理せずエアコンを使えば良いのですが、我慢してしまった結果、熱中症に罹ってしまったというニュースも聞きます。グリーンカーテンを利用して少しでも室内温度を下げれば、熱中症に罹ってしまう人も少なくできるのではないかと思います。
また日差しの強い日の散歩などは、こまめな休憩を忘れないようにしてください。そしてその際には、公園の藤棚など木陰を選ぶと良いでしょう。フラクタル構造の効果により、人工物の屋根の下よりも涼しいはずです。また同じ理由で、周囲がアスファルトよりも雑草の生えた地面の方が温度は低いはずです。
■参考文献
中村美紀、酒井敏、他:フラクタル日除けによる放射環境改善効果.日本ヒートアイランド学会論文集 2011;6:8-15