■エスカレーターからの転落事故
2017年、香川県の商業施設でエスカレーター上での車椅子の転落事故があったと、新聞のバックナンバーで知りました(毎日新聞2017.7.14の記事)。男性が車椅子に乗った妻とエスカレーターで移動中にバランスを崩し、下にいた女性を巻き込んで転落、女性は死亡しました。
車椅子でのエスカレーター利用は法律で禁じられていませんし(2021年現在)、各関係団体が紹介する車椅子介助の手引きの中には、危険を伴うため注意が必要としながらも、今回の事故と同じ方法でエスカレーターに乗る方法が紹介されているものもあったようです(この事故を受け現在は項目が削除されています)。
階段とエスカレーターしかない施設は、車椅子使用者は利用することができないと思われがちですが、実は車椅子対応エスカレーターというものがあるので紹介したいと思います。
■車椅子対応エスカレーター
車椅子対応エスカレーターは、通常運転では普通のエスカレーターと同じですが、車椅子モードでは3枚のステップが同一平面上にフラットに並び大きな1段になり、車椅子が乗れるようになるものです。段の端には車止めがせり出し、落下の心配もありません。
主に駅に導入されることが多いようですが、まだ普及率は高くありません。私が実物を見たことがあるのは、確か栃木県の水族館内のエスカレーターで、10年ほど前だったと記憶しています。そこで初めて車椅子対応エスカレーターの存在を知り、びっくりしたのを覚えています。
■利用するのは居心地が悪い
3段のステップをまとめて1段にしてしまうなんて、なかなか思い切ったアイデアだなと思いますが、見た目のインパクトゆえに、車椅子ユーザーの方の反応も良いものばかりではないようです。“エスカル”という、車椅子が乗れるほど大きなカゴが階段の手すりに沿ったレールで上下の階を移動するという、車椅子対応エレベーターの階段版のようなアイテムがあるのですが、“大きくて目立つこと”、“自分が使用する時には他の人を待たせなければならないこと”などがネックになっているようです。Twitterに寄せられた意見には、
「他の人を待たせていることに罪悪感を感じる」
「重そうな荷物を持った人に迷惑そうに睨まれた」
「極力乗らないですむよう、別のルートを探すことにしている」
「積極的に駅員さんと話して楽しそうな雰囲気を出すことにしている」
物理的なバリアが解消されても、その代わりに心のバリアが発生してしまっていて、一筋縄ではいかないようです。エレベーターを設置できれば解決するのでしょうが、スペースや予算の問題から難しい施設もあるのでしょうね。
ちなみに上の写真は私の地元の駅に設置されているエレベーターで、ドアが両方向にあるため車椅子が中で方向転換をしなくても出られるようになっています。車椅子が方向転換するには1.5m四方ほどのスペースが必要になるので、エレベーターのサイズも大きくなってしまいます。これなら小スペースで設置できますし、面白いアイデアだと思いました。
■心のバリアをなくそう
ところでこれは余談なのですが、私の家の最寄り駅はものすごく小さくて古いです(上のエレベーターの写真とは別の駅です)。改札口も狭すぎて、車椅子が通ることができません。実際、車椅子使用者が利用したいときはどうするのだろうと駅員さんに訊いてみたところ、駅員さんが四人で車椅子を担ぐそうです(神輿のように!)。なんて力技なんだと思いましたが、「めったに来ないけど、やったことはある」そうです。
モノの力でどうにもならない時は、頼りになるのは人の力ですね。しかしこれもエスカレーターと同じように、心のバリアを感じて頼みにくい、ということは当然あるのでしょう。頼まれた駅員さんも、忙しい時には面倒だと思ってしまうこともあるかもしれません。
車椅子使用者が助けを求めていたら、大抵の人は手伝うし、我慢もすると思います。心に余裕がない時には、その我慢が不満となって表に出てきてしまう時もあるかもしれませんが、車椅子使用者を優先している時に健常者が我慢するのと同じように、健常者が利用している間は車椅子使用者が我慢しなければならないわけで、お互い様の精神で気軽に譲り合えるようになればいいですね。