■部分ヤセという現象は存在しない
ダイエットは人類永遠のテーマかもしれません。健康に美しくありたいと願うのはごく自然な考えだと思いますし、そのために巷にはダイエットに関する様々な情報があふれています。しかし今日のテーマは、そんなダイエットを頑張る人たちの希望を砕いてしまうかもしれません。なぜなら“部分ヤセ”などという現象は無いのですから。そんなもの気のせいです。
いやいやそんなこと言っても部分ヤセってよく聞く言葉だし、それを謳ったダイエット法なんかもあるじゃないか!とおっしゃる方も多いかもしれません。でも…無いです。
■脂肪燃焼のメカニズム
脂肪の蓄積と燃焼のメカニズムについて、簡単に説明しましょう。、まず脂肪の役割というのは、筋肉を収縮させるためのエネルギーの貯蔵です。食物を摂取した際、すぐに使わないエネルギーが脂肪という形に変換されて身体に蓄えられます。運動した際には、これをもう一度分解してエネルギーを取り出す作業が体内で行われます。これが脂肪の燃焼です。運動によるダイエットとは、この脂肪の燃焼を期待して行うものです。
ここで重要なのは、脂肪の燃焼は筋肉が収縮するためのエネルギーを取り出すのが目的ですが、使う脂肪は筋肉の周囲の脂肪である必要はない、ということです。なんとなく、腕の筋肉のエネルギーは腕の近くの脂肪から取り出されるのではないか、という誤ったイメージが、部分ヤセという概念を誕生させたのではないかと思います。腕の筋トレで腕の脂肪は減りません。過去に行われた、片腕だけ筋トレをした後の脂肪の量を測定する実験では、左右の腕の脂肪量に違いはなかったという結果が出ています。
■それでも部分ヤセしたい
ここでコラムが終わると、ただ嫌なことを言っただけになってしまうのですが、部分ヤセを望む人たちに朗報が2つあります。
1つは、前述の通り部分ヤセというのは不可能なのですが、筋トレにより見かけ上部分ヤセであるかのような現象を起こすことは可能です。ただし部位は限定されます。
それは“脇腹”です。筋肉は鍛えることで肥大しますから、鍛えた部分が痩せることは通常ありません。しかし脇腹にある“腹斜筋”という筋肉は、腹部から背部まで脇腹に沿って走行しており、筋トレによって活性化すると、まるでコルセットで締め上げるように脇腹にクビレをつくることができます(「リハビリコラムNo.23
痩せてもクビレはつくれない」参照)。ですから腹斜筋を集中的にトレーニングすることにより、脇腹の脂肪が減らなくても部分ヤセのように見せることは可能です。
もう1つは、実は部分ヤセが可能であるという論文が存在します。「J Sports Med Phys Fitness」というスポーツ医学雑誌に2017年に掲載された論文で、30歳前後の女性16人を8週間、「上半身の筋トレ+下半身の有酸素運動30分」のグループと「下半身の筋トレ+上半身の有酸素運動30分」のグループに分け、脂肪の変化を測定しました。
その結果、上半身の筋トレ群では上半身の体脂肪が減少、下半身の筋トレ群では下半身の体脂肪が減少しました。つまり筋トレの後に有酸素運動をすることで、筋トレをした部位の体脂肪が減ったため、部分ヤセの可能性が示されたわけです。
現状は、他の様々な研究を考慮し、部分ヤセは不可能であるというのが通説です。まだこの研究だけでは、部分ヤセというものが確かに存在し、部分ヤセは不可能であるとする説を覆すほどには至っていません。しかし今後同様の研究結果が数多く報告されていけば、いつか部分ヤセを可能とするメソッドが開発されるかもしれません。
■参考文献
Alessandro Scotto di Palumbo , Enrico Guerra:J Sports Med Phys Fitness.
2017 Jun;57(6):794-801.