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イラストレーターと
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理学療法士のサイト

見出しNo.48 ドアノブを思い切って掴もう

静電気の季節

 冬も本格的になり、気温が下がるとともに空気もだいぶ乾燥してきました。乾燥といえばこの時期、静電気に悩まされる方も多いのではないでしょうか。静電気は摩擦により発生する電気です。人が動くことで衣服などに摩擦が生じ、人体に静電気が溜まっていきます(帯電)。その状態で金属のドアノブなど、電気を通しやすい物体に触れることで静電気が一気に放出され、あのバチっとした痛みを感じるのです。
 空気が乾燥していた方が帯電しやすいため、ちょうど今の時期が静電気被害のピークでしょう。今回はそんな厄介な静電気の痛みを軽くする方法について、私たちセラピストが普段患者さんにおこなっている電気療法を参考に解説したいと思います。


電気を使った治療がある

 リハビリテーションの分野には、電気を使った治療が存在します。私たちの筋肉は、脳からの微弱な電気信号が神経を伝って筋肉に届くことで動いていますが、外部から直接筋肉に電気を流しても筋肉は収縮します。この性質を利用したものが電気療法で、筋力増強や麻痺の改善が目的の治療的電気刺激、痛みを抑制するための経皮的電気刺激、神経の損傷などによって失われた機能を代償する機能的電気刺激など、様々な方法で電気を治療に活用しています。


皮膚抵抗が小さいと痛みも小さい

 筋肉に電気を流すためには、電極と呼ばれる粘着性のシートを皮膚に貼付し、それを機械につないで電気を流すのですが、静電気ほどではありませんが皮膚にビリビリとした不快な刺激があります。そのため私たちセラピストは、電気療法の時の不快な刺激を減らすために、患者さんと電極の間の“電気抵抗”を小さくすることに注意を払っています。

I=V/R

 これは電圧(V)と抵抗(R)から電流(I)を算出する、“オームの法則”の公式です。懐かしいですね。人体に流れる電流の強さは、電圧を抵抗で割ったものになります。治療においては、電流(I)が人体に流れる電気の量、電圧(V)が治療機器の出力、抵抗(R)が電極を貼付した皮膚の抵抗と考えれば良いでしょう。つまり治療効果に直結する電流(I)を高くするには、治療機器の出力を強くするか、皮膚の抵抗を小さくすれば良いということになります。
 しかしここで注意したいことは、治療機器の出力を強くすると、それに比例して痛みも強くなるということです。抵抗によって遮断された電気のエネルギーは、皮膚表面で痛みや熱に変換されます。これがあの電気が流れたときのビリビリとした痛みの正体です。電気の力が強ければ、その分遮断されるエネルギーも増え、痛みも増します。そのため痛みを減らすためには、できるだけ皮膚の抵抗を小さくする必要があるのです。


皮膚抵抗を決定する要素

 皮膚の抵抗は、おもに次の要素によって左右されます。

 ■汚れや体毛の有無
 ■皮膚の水分(保湿量)
 ■電極と接触する面積


 乾燥して古くなった角質が垢となって皮膚に付着していると、抵抗を大きくする原因になります。電極を貼付する前には皮膚を清拭して、清潔にします。また体毛自体は絶縁体に近いので、ほとんど電気を通しません。したがって電極を貼付した部分の皮膚の体毛が濃いと、それだけ電気を通しにくくなって抵抗が大きくなります。
 皮膚の水分については、水は電気を良く通すというのは一般的に知られていますね。正確には体液や汗など、電解質の溶けた水が電気を通しやすいので、皮膚の水分量が高いほど電気が流れやすい、つまり抵抗が小さくなります。これは治療の場ですぐに変えられることではありませんが、ハンドクリームなどを塗って日頃から保湿していると、皮膚の水分量が増加します。
 接触する面積が広いほど、抵抗が小さくなります。この場合は電極の大きさです。単純に電気の通り道が広くなるので、抵抗が小さくなると考えれば良いでしょう。電気療法に使用する電極は、大きさ別に何種類かありますが、小さい電極では目的の筋肉だけをピンポイントで反応させることができますが、反面抵抗が小さくなり痛みも強く出ます。大きい電極はその逆で、抵抗が大きく痛みが小さい代わりに、不必要な筋肉が反応してしまう欠点があります。私たちセラピストはそれらを考慮して、治療したい場所に合った電極を選んでいます。


ドアノブを思い切って掴もう

 以上のことを考慮して、静電気の痛みを軽減するために皮膚の抵抗を小さくするにはどうすれば良いか考えてみましょう。まず皮膚の状態については、清潔で保湿されているのが良い状態ですから、日頃から手を良く洗い、洗った後はハンドクリームなどを塗って保湿に努めましょう。これだけで皮膚の電気抵抗はぐっと小さくなります。接触するのはほとんどが指の腹や掌でしょうから、体毛は気にしなくて良いでしょう。
 また接触する面積についても改善できる余地があります。静電気の放電が発生するのは、ドアノブや車のドアハンドルなどに触れたときが多いと思います。このとき指先から触れると接触面積は最小となり、痛みは最も強い状態となりますが、掌全体で触れれば接触面積は最大となります。静電気の痛みを恐れて怖々と指先で触る行為が、かえって痛みを大きくしてしまっているのは皮肉な結果ですが、これからは痛みを恐れず、掌全体で思い切って掴んでください。



青木双風(あおきそうふう)青木双風

イラストレーター
ハンドメイド作家
理学療法士

趣味のイラストや工作の展示、イラスト素材の制作などをしています。

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