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イラストレーターと
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見出しNo.No.53 車いすクッションは値段が高いほど良い?

車椅子は誰でもお尻が痛くなる構造

 車椅子に同じ姿勢で長く座っていると、お尻の横のあたりが痛くなってきます。これは車椅子の構造上の特性からくるものです。車椅子は折りたたんで収納することができるよう、座面の素材が布張りのシートでできている、スリングシートという構造をしています。座るとシートがたわみ、臀部が沈み込みますが、そうすると坐骨や大転子といった骨が突出している部分がシートに圧迫され、痛みが出てきます。痩せて脂肪が少なくなった高齢者であればなおさらです。
 当然じっとしているとどんどん痛くなりますから動いで臀部を除圧したいのですが、スリングシートは突っ張ろうとした部分がさらに沈み込む構造の為、思うように動くことができません。ハンモックの上で動くのを想像してもらえば近いでしょうか。
 それを解決するために有効なのが車椅子クッションです。クッションには適度な除圧機能や姿勢保持機能があるため、車椅子のスリングシートが持つ問題点を解決してくれます。


クッションは値段が高いほど性能も高いの?

 車椅子にクッションを使用することで座り心地を改善することができます。ただし一口に車椅子クッションといっても素材や形状も様々で、どれが一番良いのか悩んでしまいますね。値段が高いほど性能が良いのでしょうか?
 確かに性能は良いかもしれませんが、それが合っているかはわかりません。というのも、車椅子クッションはその目的によって目指す方向性が異なるからです。目的に沿わないクッションを使用することで、かえって不便になってしまうということもあります。
 車椅子クッションに求める役割は、大きく分けて2つ、“除圧”と“姿勢保持”です。この2つの性能が使用者の能力と合っているかどうかが大切で、合わないクッションでは使用者の能力が大きく制限されてしまいます。どういうことなのか、次項で解説しましょう。


除圧

 私たちが椅子に座ったとき、お尻の部分に体重がかかります。実はこれにより皮膚の毛細血管がつぶれ、一時的に血行障害が起こっています。しかしすぐに何かしら異常事態に発展するわけではありません。ずっと同じ姿勢で座っていると血行障害により付近の細胞や神経が酸素不足におちいり、危険信号として痛みを発します。私たちはこれを不快感として認識し、なんとなく身じろぎします。これにより体重がかかっていた部分が除圧され、血行が回復します。座っている間、これをずっと繰り返しています。
 しかし自分で身じろぎすることができない方はどうでしょうか。ずっと圧迫され続け、酸素不足が続いた細胞は壊死してしまい、ひどいと褥瘡に発展します。いわゆる床ずれと同じ状態です。そのためクッションには体重が局所に集中しないよう、分散する機能が求められます。


姿勢保持

 医学的に良い姿勢と、楽な姿勢は一致してはいません。医学的に良い姿勢を保つにはそれなりの筋活動が必要で、ずっと同じ姿勢をとっていると疲れてだんだんと崩れてしまいます。適度に休んで自分で姿勢を直せる方なら問題ありませんが、それが難しいとどんどん悪い姿勢に流れていってしまいます。そのためクッション自体に良い姿勢を保持する機能が求められます。


除圧と姿勢保持性能は高いほど良いのか?

 クッションに除圧と姿勢保持の性能が求められることは前述の通りですが、ではこれらの性能が高いほど良いのかというと、そうではないのが難しいところです。車椅子は長時間過ごすための場所であると同時に、目的のために移動する手段でもありますから、食事や歯磨きなど車いすに座った状態で日常生活の様々な行為を行います。
 除圧性能が高いほどクッションは柔らかくなる傾向にありますが、反面ふわふわした座面では動きづらくなります。日常生活のために座って様々な動作を行うためには、座面にはある程度の硬さが必要です。姿勢保持性能についても同様で、この機能が高すぎると同じ姿勢を強制されてしまいますから、前方に身を乗り出すときなど、自分で動ける方にとってはかえって邪魔になってしまいます。ですから活動量の多い方の場合は、この二つの性能はむしろ必要最低限に抑えた方が良いのです。


まとめ

車いすクッションに求められる機能とは…

@自分で除圧ができない方には除圧性能が高いものが良い
A自分で姿勢の制御ができない方には姿勢保持機能が高いものが良い
B自分で動ける方には@Aは必要最低限が良い


次回のコラムでは、素材や形状による除圧性能や姿勢保持性能の違いについて深掘りして、皆さんに最適なクッションをさらに探っていきます。



青木双風(あおきそうふう)青木双風

イラストレーター
ハンドメイド作家
理学療法士

趣味のイラストや工作の展示、イラスト素材の制作などをしています。

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