■やる気のある人ほど良く回復する?
“やる気”や”意欲”はリハビリテーションにおいてとても重要です。またうつ傾向や意欲低下のある方のリハビリテーションが思ったように進まなかったり、逆に意欲の高い方ほど回復も早いと感じるのは臨床上よくあることです。
経験上そう感じることが多い意欲と機能回復の関係ですが、実際に心理面と運動機能の回復がどの程度関連するかは解明されていませんでした。しかし京都大学や総合研究大学院大学の西村さんら研究グループが、脊髄損傷後のサルの運動機能の回復に“やる気”や”意欲”が関連していると米国科学雑誌のScienceに報告しました1)。“やる気”や”意欲”を司る”側坐核”が、運動機能を司る”大脳皮質運動野”の活動を活性化し運動機能の回復を促進するというのです。
■側坐核を抑制されると運動機能が回復しない
まず西村さんらの研究グループは、損傷した神経が回復していく過程で、脳内でどのような変化が起こっているのかを調べるため、神経損傷を起こしたサルの脳血流量を調べました。
サルたちはエサをつかむために、神経が損傷して動かしにくくなっている指を動かそうと努力します。するとつかみ動作を司る領域の脳血流量が増していたのはもちろんですが、同時に”側坐核”と呼ばれる部位の血流量も増加していました。側坐核は“やる気”や”意欲”を司る領域で、運動とは無関係だとされてきました。
次に研究グループは、側坐核が運動機能の回復にも関与しているのかを調べるために、脊髄損傷を起こしたサルたちに対し、神経の回復が起こり始めるタイミングで、薬によって側坐核の働きを抑制しました。すると側坐核の働きを抑制しなかった集団は約2か月ほどで損傷前と同じくらいの機能まで回復したのに対し、側坐核を抑制した集団はまったく回復が起こりませんでした。これにより少なくとも動物実験では、神経の回復段階において側坐核の働きが運動機能の回復に必要であることがわかりました。
■自分次第という意識が強いとリハビリテーションに有利
近年の脳卒中患者を対象とした研究では、リハビリテーションの開始時において「良くなるかは自分次第である」という意識が強い人ほど、1か月後の日常生活動作の自立度が高かったという結果が出ています。
またうつ病患者では側坐核の機能不全が起こる2)ことが報告されており、うつ症状が重い患者ほど運動機能の回復が阻害されるという報告3)もありますから、やはり”やる気”や”意欲”が運動機能の回復に大きく関与しているのは間違いなさそうです。
■今後のリハビリテーションに重要な要素
こういった結果をふまえてなのか、近年ではうつ病に対する治療法の一つとして側坐核への脳深部刺激療法が試みられています。側坐核を電気刺激することでうつ症状が軽減するだけでなく、なにかをしようという行動へのポジティブな感情を引き起こすことも報告されています4)。
“やる気”や”意欲”が改善のためには大事、というのは今までなんとなくの共通認識ではあったと思いますが、今後のリハビリテーションにおいては、やる気を引き出して側坐核を活性化させるような心理学的、認知行動療法的なアプローチがますます注目されるかもしれませんね。
■参考文献1)Michiaki SUZUKI, Yukio NISHIMURA. Nucleus accumbens as the motivation center is essential for functional recovery after spinal cord injury. Journal of Rehabilitation Neurosciences. 2021;21:23-28.
2)Epstein J, Pan H, Kocsis JH, Yang Y, Butler T, Chusid J, et al. Lack of ventral striatal response to positive stimuli in depressed versus normal subjects. Am J Psychiatry. 2006;163(10): 1784-90.
3)Saxena SK, Ng TP, Koh G, Yong D, Fong NP. Is improvement in impaired cognition and depressive symptoms in post-stroke patients associated with recovery in activities of daily living? Acta Neurol Scand.2007; 115:339-46.
4)Schlaepfer TE, Cohen MX, Frick C, Kosel M, Brodesser D, Axmacher N, et al. Deep brain stimulation to reward circuitry alleviates anhedonia in refractory major depression. Neuropsychopharmacology. 2008; 33(2): 368-77.